
医療法人におけるM&Aとは?5つのスキームや事例を紹介します
「医療法人はM&Aできるの?」「医療法人が利用できるM&Aのスキームとは?」と疑問をお持ちの方はいませんか。
後継者不足が深刻化している現在、医療法人におけるM&Aへの注目度が高まっています。しかし、具体的にどのようなスキームを利用できるかわからない方も少なくありません。
そこで今回の記事では、医療法人におけるM&Aの前提知識、医療法人が利用できるM&Aのスキーム、M&Aの事例、よくある質問などについて解説します。
医療法人におけるM&Aとは?
そもそもM&Aとは何を指すのでしょうか?
M&A(Mergers and Acquisitions:合併・買収)とは、2つ以上の法人が合併したり、ある法人が他の法人を買収したりする経営戦略のことです。
M&Aと聞くと強制力があるものとイメージする方が多いですが、それは株式を自由に売買できる株式会社に限ります。
医療法人の場合、買い手と売り手の同意のもとに行われるケースがほとんどです。近年、医療法人においてもM&Aへの注目度が高まっています。
医療業界でM&Aが注目されている理由
M&Aへの注目度が高まっている理由として、後継者問題が考えられるでしょう。
株式会社帝国データバンクの調査によると、自動車・自転車小売業界、職別工事業業界に続き、医療業界は後継者不足が著しい業界としてランクインしています。
経営者の高齢化が進んでいることや、少子化により医師が減少していることが原因に挙げられます。
そこで医療法人の継承問題を解決する手段として、M&Aが注目されているのです。
参照:株式会社帝国データバンク「後継者「不在率」、過去最低の 52.1% 事業承継「脱ファミリー化」進む跡継ぎ候補にベテラン志向 「豊富な経験」後継者に求める傾向強まる」
【種類別】医療法人が利用できるM&Aスキーム
医療法人は大きく以下の2種類に分けられます。
医療法人の種類 | 概要 |
---|---|
持分あり医療法人 | 定款に出資持分に関する定めのある医療法人のこと。 |
持分なし医療法人 | 定款に出資持分に関する定めのない医療法人のこと。 |
持分あり医療法人
持分あり医療法人とは、出資持分に関する定めのある医療法人のことです。持分あり医療法人が利用できるM&Aスキームとして、以下が挙げられます。
- 出資持分譲渡
- 合併
- 事業譲渡
持分あり医療法人は持分の定めがあるため、持分を自由に得ることが認められています。
持分なし医療法人
持分なし医療法人とは、出資持分に関する定めのない医療法人のことを指します。持分なし医療法人が利用できるM&Aスキームは以下の通りです。
- 基金の譲渡
- 合併
- 分割
- 事業譲渡
基金の譲渡や分割は、持分なし医療法人にしか認められていません。
このように医療法人の状況によって利用できるM&Aスキームが異なるため注意してください。
医療法人が利用できる5つのM&Aスキーム
それでは、M&Aスキームについて1つずつ詳しく紹介します。
1. 合併
医療法人が利用できる1つ目のM&Aスキームは「合併」です。
合併とは、2つ以上の組織が1つに統合される手法を指します。合併は大きく分けると、以下の2種類に分けられます。
合併の種類 | 概要 |
---|---|
新設合併 | 1つの組織を存続させて、それ以外の組織を消滅させる方法 |
吸収合併 | 全ての組織を消滅させて、新たな組織を設立する方法 |
一般的に医療法人における合併は「吸収合併」を指すことが多いです。消滅した組織の権利義務等は全て、存続する組織に引き継がれます。
2. 事業譲渡
医療法人が利用できる2つ目のM&Aスキームは「事業譲渡」です。
事業譲渡とは、事業の一部のみを譲渡する手法を指します。一部のみが売却の対象となるため、売り手側の医療法人は譲渡後も存続します。
例えば、分院展開をしている医療法人や、収益性が低下している事業だけを売りたい医療法人などによって用いられることが多いです。
しかし、事業譲渡を行うには行政(都道府県)の許認可取得が必要になります。そのため、医療業界のM&Aに精通した専門家のサポートを利用する医療法人も少なくありません。
3. 出資持分譲渡
医療法人が利用できる3つ目のM&Aスキームは「出資持分譲渡」です。
医療法人における出資持分とは「出資者の財産権を表したもの」を指します。 出資持分譲渡では、この出資持分の所有者を変更する方法を採用しています。
出資持分譲渡は包括継承となるため、資産や負債、従業員などはそのまま引き継がれます。
出資持分譲渡については、以下の記事で詳しく解説しているので、参考にしてください。
関連記事:医療法人における出資持分譲渡とは?手続きや注意点をわかりやすく解説!
4. 分割
医療法人が利用できる4つ目のM&Aスキームは「分割」です。
以前までは医療法人には分割が認められていませんでしたが、平成28年の医療法改正により医療法人でも分割できるようになりました。
分割は大きく「新設分割」と「吸収分割」に分けられます。
分割の種類 | 概要 |
---|---|
新設分割 | 新たな医療法人を設立して、事業を引き継ぐ方法 |
吸収分割 | 既存の医療法人に事業を引き継ぐ方法 |
しかし、分割が認められているのは持分なし医療法人のみです。
5. 基金の譲渡
医療法人が利用できる5つ目のM&Aスキームは「基金の譲渡」です。
基金とは持分なし医療法人のうち、基金拠出型医療法人に拠出された財産を意味します。基金に関しては、定款の定めるところにより、返済の義務が認められています。
基金拠出型医療法人の場合は、持分の代わりに基金を譲渡することで、M&Aを実行します。持分あり医療法人と同じく、役員変更・社員変更によって医療法人を譲渡する流れです。
持分なし医療 法人については、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:持分なし医療法人への移行方法とは?メリットやデメリットを解説!
医療法人におけるM&Aの事例
ここでは、公正取引委員会の資料を参考にしながら、医療法人におけるM&Aの事例を確認していきましょう。
参照:公正取引委員会「医療法人(病院)のM&Aの実態」
事例1
医療法人Aは関東で精神病院を30年以上経営していました。最寄り駅から徒歩5分というアクセスの良さ、そして理事長の人脈などにより、安定した経営を実現していたと言います。
しかし、医師として活躍するご息女とは方針の違いがあり、事業の引き継ぎで課題を抱えていました。外部の医師を招聘したこともありましたが、方針の違いにより断られてしまったそうです。
そこで地域銀行に相談したところ、関東進出を考えていた医療法人Bが現れ、スピーディーに買収を完結させることができました。
事例2
医療法人Cは、関東地方で30年以上にわたり慢性期病院を経営していました。
東大医局ネットワークや高度なコミュニケーションスキルを活かし、安定的な経営を実現できていたと言います。
しかし、ご子息が事業を引き継ぐことができる状況ではなく、常勤の勤務医師達も引き継ぐ医師を示しませんでした。
そこで医療・介護セミナーを受講し、M&Aを行うことを決めました。買い手医療法人Dは、再生病院の請負からスタートしましたがすでに大きく成長しており、訪問医療の新たな拠点を構えたいということで、医療法人Cを買収することを決めたと言います。
事例3
医療法人Eは、東京都に2ヶ所クリニックを運営しています。地元高齢者を対象にした医療を中心に展開していました。
しかし、初代理事長の急逝により、医師ではないご子息が二代目理事長の座を引き継ぎましたが、一族に医師がいないことを問題視していました。
そこで買い手医療法人Fに売却することを決めました。医療法人Fは訪問歯科診療を展開しており、訪問診療分野と訪問歯科診療分野の相乗効果を得るという狙いがあったと言います。
医療法人のM&Aに関するよくある質問
ここでは、医療法人のM&Aに関するよくある質問に回答します。
株式会社が医療法人を買収することは可能?
原則として、株式会社が医療機関を直接経営することは認められていません。医療法人には非営利性が求められるためです。
そこで株式会社が医療法人の経営を行う手法として、以下の方法が採用されることがあります。
- 株式会社が医療法人の経営権を取得する
- MS(メディカルサービス)法人を活用する
- 一般社団法人を活用する
しかし、営利性を追求してしまうと、医療法人の事業目的に反してしまうため、専門家のサポートを得ながら医療法人の経営に関わることをおすすめします。
医療法人のM&Aに関するおすすめ本は?
医療法人のM&Aをテーマとした書籍は、さまざまなものが販売されています。
- 医療法人M&Aの実務Q&A(中央経済社)
- 病院経営者の心得とM&Aの実際(経営書院)
- クリニックの第三者承継実務 ~売り手・買い手の承継手順と法務・税務(日本法令)
知識が不足している場合は、専門家のサポートを利用することも検討してみてください。
記事まとめ:医療法人についてのご相談は七福計画株式会社へお任せください
今回の記事では、医療法人におけるM&Aの前提知識、医療法人が利用できるM&Aのスキーム、M&Aの事例、よくある質問などについて解説しました。
医療法人においては後継者問題が深刻化しており、M&Aの注目度が高まっています。M&Aにはさまざまなスキームがあるため、医療法人の形態や状況を踏まえた上で、最適なスキームを選ぶことが大切です。
M&Aの知識が不足している場合は、七福計画株式会社にご相談ください。当社は3,000件以上の相談実績を誇り、医療業界のサポートも手がけてきました。
なお、公式サイトでは医療法人向けのお役立ち情報も発信していますので、ぜひチェックしてみてください。