
医療法人における出資持分譲渡とは?手続きや注意点をわかりやすく解説!
「医療法人における出資持分譲渡とは?」
「医療法人の譲渡手続きは難しい?」
と疑問をお持ちの方がいるかもしれません。
出資持分とは「出資者の財産権を表したもの」です。
出資持分あり医療法人の場合、出資持分を譲渡・贈与・相続することが認められています。
今回の記事では、医療法人における出資持分譲渡の基礎知識、出資持分譲渡の手続き(出資持分あり医療法人と出資持分なし医療法人のケース)、注意点などについて解説します。
医療法人における出資持分譲渡とは?
まずは、医療法人の出資持分譲渡に関する基礎知識を確認していきましょう。
出資持分とは
出資持分とは「出資者の財産権を表したもの」です。
株式会社における「資本金」に相当するもので、「医療法人の経営に必要な原資」という位置付けでしょう。
出資持分は出資割合に応じて払い戻したり、残余財産の譲渡・贈与・相続を行ったりすることが認められています。
医療法人は「出資持分の有無」によって、以下のように分類可能です。
- 出資持分あり医療法人:定款に出資持分に関する規定を設けている医療法人
- 出資持分なし医療法人:定款に出資持分に関する規定がなく、持分がない医療法人
以下でそれぞれについて詳しく確認していきましょう。
出資持分あり医療法人
出資持分あり医療法人とは、「定款に出資持分に関する規定を設けている医療法人」のことです。
現在、医療法人の「約7割」が出資持分あり医療法人であると言われています。
ただし、非営利性の徹底と地域医療の安定性の確保を目的として、平成19年に医療法が改正されたことにより、出資持分あり医療法人を新たに設立することができなくなりました。
出資持分あり医療法人の場合、持分を譲渡・贈与・相続することが可能です。
出資持分なし医療法人
出資持分なし医療法人とは、「定款に出資持分に関する規定がなく、持分がない医療法人」のことです。
上述した通り、現在は出資持分なし医療法人のみ、新規設立することが認められています。
なお、出資持分がないため、事業承継の際に相続税等が発生することはありません。
出資持分なし医療法人の中には、基金の制度を採用した「基金拠出型法人」も存在します。
出資持分なし医療法人の基礎知識については、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:持分なし医療法人への移行方法とは?メリットやデメリットを解説!
出資持分譲渡とは
出資持分譲渡とは、医療法人がM&A(Mergers & Acquisitions:合併・買収)を行う際に利用されるスキームのことです。
M&Aで出資持分譲渡が行われる場合、包括継承となります。
そのため、出資持分所有者が変更になる以外は、資産や負債、従業員などがそのまま引き継がれます。
【出資持分あり医療法人】出資持分譲渡の手続き
出資持分あり医療法人が出資持分譲渡の手続きを行う際のステップを紹介します。
1. M&A仲介会社の選定
まずはM&A仲介会社を選定しましょう。
M&A仲介会社とは、売り手と買い手を仲介し、契約をサポートする会社のことです。
M&A仲介会社を必ず利用する必要はありません。
しかし、出資持分譲渡には複雑な手続きが伴うため、自力で進めるのは負担が大きいでしょう。
ただし、M&A仲介会社にはさまざまな種類があるため、医療分野に強みを持った会社を選定することが大切です。
2. 出資持分の価値算定
続いては、出資持分の価値算定を行います。
出資持分の算定結果をもとに買い手とのマッチングが進められるため、重要なプロセスのひとつです。
一般的にはM&A仲介会社に必要書類を提出し、医療法人の規模や純資産価額などを踏まえながら、出資持分の価値を算定してもらいます。
3. マッチング・面談・条件交渉
出資持分の価値算定が完了した後は、買い手と売り手のマッチングが行われます。
希望取引価格、および希望条件を提示することが可能なので、マッチング前に検討しておくことが大切です。
希望取引価格や希望条件にもとづいて、M&A仲介会社が最適な候補を提案してくれます。
医療法人側で候補を絞り、面談や条件交渉の段取りに移りましょう。
一般的には、候補先の医療法人とのトップ面談が設けられます。
人柄や医療法人としての方針などを踏まえて、相性を確認してください。
相性が合った場合は、詳細な条件(取引価額や実施時期など)を決定していきます。
4. 基本合意書の締結
マッチングが完了したら、いよいよ基本合意書の締結です。
基本合意書には、これまで打ち合わせで話し合ってきた条件等を記載します。
契約書に明記することで、相互の認識を再確認することが可能です。
ただし、基本合意書には法定拘束力がありません。
続いてのステップであるデューデリジェンスによって、内容が変更になる可能性があります。
5. デューデリジェンス
デューデリジェンス(Due Diligence:買収監査)とは、買い手側が売り手側の法人について調査を実施することです。
売り手側の医療法人の価値、リスクの実態などが専門家によって調査されます。
デューデリジェンスは、調査項目によって以下のように区分されます。
- セルサイドデューデリジェンス
- ビジネスデューデリジェンス
- 財務デューデリジェンス
- 法務デューデリジェンス
- 人事デューデリジェンス
- ITデューデリジェンス
売り手側は必要書類を用意したり、現地調査やマネジメントインタビューに対応したりする必要があるため、準備しておくことが大切です。
6. 出資持分譲渡契約書の締結
デューデリジェンスが完了した後は、出資持分譲渡契約書の締結を進めます。
出資持分譲渡契約書とは、譲渡対価やクロージングの日などを記載した最終契約書のことです。
基本合意書とは異なり、出資持分譲渡契約書には法的拘束力があります。
買い手側と売り手側は、出資持分譲渡契約書に基づいて譲渡、対価の支払いを進めましょう。
7. 社員・役員の入れ替え
M&Aを完了させるためには、社員・役員の入れ替えを行う必要があります。
売り手側の社員・役員を退社させた後は、買い手側の自然人・非営利法人を入社させてください。
社員・役員の入れ替えが完了したら、M&Aが完了したということです。
※売り手側の社員が継続して残るケースもあります。
【出資持分なし医療法人】出資持分譲渡の手続き
それでは、出資持分なし医療法人の場合はどうなるのでしょうか?
出資持分なし医療法人は出資持分譲渡を利用できません。
基本的には、買い手側が新しい役員を就任させるタイミングで、社員の入退社を行います。
出資持分譲渡のように対価を直接支払うことはできないため、退職金の支払いなどを利用することが多いです。
ただし、退職金には上限額が定められているので、不足分は顧問料などで支払われます。
医療法人における出資持分譲渡の注意点
ここでは、医療法人における出資持分譲渡の注意点を紹介します。
譲渡所得と退職所得が課税される
売り手側が出資持分譲渡を実施し、対価を受け取った場合、譲渡所得による利益に税金が発生します。
譲渡所得に課せられる税金の計算式は、以下の通りです。
譲渡所得税=譲渡所得(譲渡価額―[取得費+譲渡費用])×20.315%
出資持分譲渡による対価ではなく、退職金を受け取った場合も、税金が発生するため注意してください。
包括承継でリスクも引き継ぐ必要がある
包括承継とは、特定の権利義務ではなく、全ての権利義務を一括して承継することです。
基本的に医療法人の出資持分譲渡では、包括承継が採用されています。
そのため、買い手側は医療法人の利益のみならず、リスクも引き継がなくてはいけません。
例えば、出資持分譲渡が完了した後に、偶発債務や簿外債務が発覚するケースもあります。
そのため、買い手側には事前の調査を徹底したり、専門家を活用したりする対応が求められます。
多大な買収資金が必要になる可能性が高い
出資持分譲渡においては、買い手側は多大な買収資金を用意しなくてはいけません。
医療法人では、純資産額をベースとした時価評価が行われます。
また、医療法人は利益率が高いため、出資持分の評価額が高くなりやすいです。
特に出資持分あり医療法人を買収するケースです。
現在は、平成19年の医療法改正により、出資持分あり医療法人を新設できません。
つまり、出資持分あり医療法人には希少価値があるため、譲渡金額が高騰しやすいのです。
記事まとめ:医療法人についてのご相談は七福計画株式会社へお任せください
今回の記事では、医療法人における出資持分譲渡の基礎知識、出資持分譲渡の手続き(出資持分あり医療法人と出資持分なし医療法人のケース)、注意点などについて解説しました。
医療法人における出資持分譲渡とは、医療法人がM&Aを実施する際に用いられるスキームのひとつです。
出資持分譲渡では複雑な手続きが発生するため、外部の専門家を活用する医療法人が少なくありません。
七福計画株式会社は、医療法人の経営や税務などに関するサポートを提供しています。
これまで3,000件以上の相談を受け付けてきた実績から、知見やノウハウを活かしたアドバイスを得意としています。
オンラインでも相談を受け付けていますので、ぜひお気軽にご相談ください。