この記事では、法人の経営者や経理・財務担当者の方々に向けて、法人の節税対策について詳しく解説します。
この記事をお読みいただくことで、節税のポイントや具体的な節税対策とその効果を理解することができます。
法人で節税する方法・スキームを解説
昨今の税制改正においては、大企業に対する交際費特例の廃止や、外国不動産を使った節税スキームの封じ込めなど、主に大企業や富裕層をターゲットとした増税法案が多数成立しています。
増税のメインターゲットは今のところ大企業や富裕層ですが、国の財政状況を鑑みると近いうちに中小企業や準富裕層をターゲットとした大規模な増税がなされてもおかしくありません。
中小企業であっても、積極的な節税対策を実行しないと、適切な節税対策を実行している同業他社よりも高い税金を支払うことになる時代が、本当にもうすぐそばまで来ています。
節税対策のポイントは次の2つです。
- 節税対策のゴールは対策の実行ではなく節税の達成だと理解すること
- ベストな節税対策は企業の状況とその時点の法令に左右されること
1つ目について、節税対策のゴールは対策の実行ではなく節税の達成です。
対策を講じることだけ一生懸命に行っても、その後の状況の変化に対応できなかったり、面倒になって途中でやめてしまったりした場合は、せっかく講じた対策が無意味になってしまいます。
節税対策には適切な伴走者が必要です。
2つ目について、どの企業、どの時代にも対応できる万能の節税対策はこの世に存在しません。自社にあった方法を、その時代の最新の法令に即して探していく必要があります。
会計事務所がおすすめ!最強の税金対策法とは
以下では、節税に精通した会計事務所がおすすめする節税対策として、次の9点を解説します。
- 法人成り
- 適切な勘定科目を使った管理
- 消費税の簡易課税
- 所得控除
- 退職金
- 法人保険
- 法人口座での株式投資
- 不動産投資
- その他(ふるさと納税、足場・ドローン)
法人成りはある種の節税対策
法人成りの節税効果
法人成りが節税効果を生むのは、次の2点が理由です。
- 法人税と所得税の税率差
- 経費となる金額の範囲
1点目について、法人税の税率と所得税の税率には次の差があります(法人税は一定の中小法人の場合)。
税金 | 税率 |
---|---|
法人税 | 15%(課税所得年800万円以下の部分)、23.2%(課税所得が年800万円超の部分) |
所得税 | 最低5%、最高45%(45%が適用されるのは課税所得が年4,000万円以上の部分) |
多額の課税所得が出る場合、法人税の税率は所得税より低くなります。
たとえば課税所得が4,000万円から5,000万円に1,000万円増えた場合の税負担額は、法人税が232万円である一方所得税は450万円ですから、法人成りすることで大幅に節税できます。
2点目について、法人は個人事業よりも経費となる金額の範囲が広い傾向にあります。具体的な例は次のとおりです。
税金 | 法人税 | 所得税 |
---|---|---|
経営者へ支払う役員報酬 | 社長に支払う役員報酬は 損金の額に算入できる (一定の制限あり) |
個人事業主に支払う給料は 必要経費の額に算入できない |
親族(家族)に支払う給料 | 損金の額に算入できる (一定の制限あり) |
専ら個人事業に従事している親族への給料しか 必要経費の額に算入できない (更に、白色申告の場合は一定額しか必要経費に算入できない) |
自宅を社宅とする場合 | 法人名義で契約したマンション等を 社宅として社長へ貸し出すことができる |
自宅と事務所の按分部分しか 必要経費の額に算入できない |
法人成りのメリットとデメリット
法人成りには上記で紹介したメリットがある一方で、次のようなデメリットもあります。
- 法人は個人事業主に比べて決算や確定申告の手続きが面倒である
- 事業で利益が出ない(赤字)の場合であっても法人住民税の均等割(法人の利益にかかわらず、法人の資本金等の額や従業者数で税額が決まる部分)を支払う必要がある
法人成りが節税につながるかはケースバイケースです。法人成りするかどうかは、現在及び将来の課税所得や今後の事業展開などを総合考慮して判断することをおすすめします。
経費計上や勘定科目など会計の仕組みをまずは理解するのがポイント
法人税の計算の仕組み
法人の節税方法の良し悪しを判断するためには、法人税の計算の仕組みを知っておく必要があります。法人税の金額は次のステップで計算します。
- 益金の額から損金の額を引いて課税所得を計算します
- 1の金額に法人税の税率を乗じます
- 税額控除がある場合は2の金額から控除します
損金の額が増えれば課税所得が減り、結果として法人税を節税することができます。しかしながら、すべての費用が損金の額に算入されるわけではない点に注意が必要です。
次のセクションでは損金の額になる費用とならない費用について解説します。
損金の額の計算方法と損金とならない費用
「損金の額」は、企業会計上の売上原価、販売費及び一般管理費、損失の金額の合計額をベースに一定の税務上の調整を加えて計算します。
「一定の税務上の調整」によって損金の額に算入されなくなる費用の例は次のとおりです。
- 定期同額給与、事前確定届出給与または業績連動給与のいずれにも該当しない役員報酬
- 限度額を超えた交際費の額(一定の交際費は除く)
- 限度額を超えた寄附金の額(一定の寄附金は除く)
- 税金(一定の税金は除く)
適切な勘定科目を使うことの重要性
節税をするためには、損金の額に算入できる費用を間違って損金不算入としないことが非常に重要です。
たとえば寄附金の場合、同じ「寄附金」であっても国や地方公共団体への寄附金、公益財団法人への寄附金、その他の寄附金では税務上の取り扱いが異なります。
税務上の取り扱いごとに適切な勘定科目を使って管理すれば、損金不算入額が過大となることも過小になることも防ぐことができます。
消費税対策の必要性とポイント
消費税の計算の仕組み
消費税は「多段階課税」と呼ばれる仕組みを採用しているため、法人が申告すべき消費税の額は原則として次の1から2を引いて計算します(この方法を「原則課税」といいます)。
- 顧客等から預かった消費税の合計額
- 仕入先等へ支払った消費税の合計額
1と2の金額を年間分集計し、1が2よりも大きければ差額を納付し、2よりも小さければ差額の還付を受けます。
この計算に法人の利益の額は関係ありませんから、赤字の法人であっても消費税の納税義務が生じることはあります。
簡易課税で消費税支払額の軽減は可能?
消費税には上記の原則課税の他に「簡易課税」と呼ばれる方法もあります。
仕入先等へ支払った消費税が少ない法人は簡易課税を選択することによって原則課税よりも消費税の支払額を減らすことができる可能性もありますが、簡易課税を選択することのデメリットや注意点もあるので、節税効果が出るかは具体的なシミュレーションを行ってから判断することをおすすめします。
所得税の負担軽減対策
所得税の計算の仕組み
所得税の金額は次のステップで計算します。
- 収入金額から必要経費等(給与所得の場合は給与所得控除額、公的年金の場合は公的年金等控除額)を引きます
- 1の金額から所得控除額を引きます
- 2の金額に所得税の税率を乗じます。税額控除がある場合はここから控除します
所得税を節税するためには、必要経費と控除額を増やす方法を採用するのが効果的です。
給与所得と雑所得のうち公的年金にかかるものについては必要経費の概念はなく、代わりに法定の式で計算する給与所得控除額・公的年金等控除額が収入金額から控除されます。
給与所得控除額は収入金額が増えると増加しますが、収入金額が850万円を超えると頭打ちになってそれ以降は増加しなくなります(公的年金等控除額は収入金額1,000万円以上で頭打ちです)。
法人から受け取る役員報酬は給与所得に区分されるため、役員報酬を850万円以下にすることによって、役員の方の収入に占める所得税額の割合を抑えることが可能です。
さらに、給与所得に適用される税率は超過累進税率であることから、役員報酬が増えれば増えるほど所得税の負担額は増加します(課税所得金額4,000万円以上で税率は頭打ちとなります)。
所得税の負担を軽減できる各種控除
所得税の控除には「所得控除」と「税額控除」があります。いずれも、控除を漏れなく受けることで所得税の負担を軽減することが可能です。所得控除と税額控除の代表例は下表のとおりです。
控除 | 代表例 |
---|---|
所得控除 | 基礎控除、社会保険料控除、医療費控除、 生命保険料控除、小規模企業共済等掛金控除、寄附金控除 |
税額控除 | 住宅ローン控除、認定NPO法人寄附金控除、 配当控除(総合課税の配当についてのみ適用有) |
このうち、社会保険料控除、医療費控除(医師の診察料の支払いなどをした際の控除)、生命保険料控除、寄附金控除(ふるさと納税や赤い羽根共同募金への寄付を行うことで受けられる控除)は特に領収書等の紛失が多いため、受け取った領収書等は専用の箱に入れておくことをおすすめします。
退職金は節税対策になる?
退職金を受け取った個人の税金
退職金にも所得税は課税されますが、「退職所得」と呼ばれる特別な区分で取り扱われ、他の所得よりも収入額に占める税金の割合がかなり低く設定されています。
たとえば、勤続30年の人が勤務先から退職金をもらった場合、その金額が1,500万円までであれば所得税はかかりません。
企業版確定拠出年金や退職金共済制度への掛金拠出で節税できる
企業版確定拠出年金や中小企業退職金共済制度へ拠出した掛金はその拠出した法人の損金の額に算入されるため、従業員の退職金積立をすることで法人も節税することができます。
また、従業員が企業版確定拠出年金の「マッチング拠出」を行った場合、その拠出額は全額「小規模企業共済等掛金控除」という所得控除を受けることができるため、拠出した従業員の所得税の額を節税することも可能です。
法人保険は今でも税金対策に有効な手段?
法人保険を使った節税対策
かつて、法人保険を使った節税対策が盛んに行われ、多くの会社が「節税効果がある」と言われる生保(生命保険)や医療保険などに加入していました。
これらの法人保険による行き過ぎた節税を解消するため、2019年に法人保険に関する新たなルールが導入されました。
法人保険新ルールの導入で節税対策の効果は減少した
法人保険に関する新ルールの導入によって、「掛金を全額損金算入でき、かつ解約返戻率が高かった保険」に対する掛金は税務上資産として計上することになり、「保険掛金が全額損金算入できる」というメリットが失われました。このことで法人保険を使った節税対策の効果は大きく減少しました。
もっとも、最高解約返戻率が50%以下である法人保険は依然として掛金を全額損金算入できるため、生命保険の必要性がある場合は、今でも有効な節税策の一つだといえます。
法人口座で株式投資はあり?
株式売却益と配当金への税金
株式売却益や配当金、国債の利子などの金融所得にかかる税率は、原則として所得税が15.315%、法人税が23.2%(課税所得800万円超の場合)であるため、適用税率の観点からは法人口座よりも個人口座の方が優れています。
法人口座で株式投資をするメリットとデメリット
法人口座で株式投資をするメリットは、株式の譲渡損益や配当金等を他の事業での損益と合算することができる点です。
個人口座の場合は他の所得と通算することが制度上できないものであっても、法人口座の場合はそれが可能です。
一方、法人口座で株式投資をするデメリットは次の2点です。
- 個人口座に比べると適用税率が高い
- 確定申告が面倒(個人口座における「特定口座」の仕組みは存在しない)
不動産投資で節税をする際に知っておきたいこと
不動産の取得には様々な税金がかかる
投資のため不動産購入を行う場合、不動産(土地・建物)の取得には次の税金がかかる点に注意が必要です。
- 不動産取得税(不動産の取得時)
- 印紙税(不動産の売買契約時)
- 登録免許税(不動産の登記名義変更時)
- 固定資産税・都市計画税(毎年)
これらの税金には各種減免措置も用意されていますが、自宅用と賃貸用では取り扱いが異なりますし、同じ投資用不動産であっても、事務所用か居住用か、新築か中古かといった要素で異なる取り扱いがされることもあります。
海外不動産を使った節税策は封じられた
不動産投資の節税策として人気があった「海外(特にアメリカ)の中古不動産を購入する」方法は、最近の税制改正で封じられてしまいました。
現在でも不動産投資による節税はメジャーな選択肢ですが、不動産の立地や築年数によっては空室リスクや多額の補修費用が必要となるリスクもあるため、物件選びは慎重に行うことが肝要です。
その他知っておきたい法人節税対策2選
ふるさと納税
「ふるさと納税」というと個人が行うものと思われがちですが、実は「企業版ふるさと納税」の制度も存在します。
企業版ふるさと納税では、一定の地方公共団体へ寄附した場合、最大で寄附金の額の9割に相当する金額の法人関係税が軽減されます。
個人版ふるさと納税とは異なり返礼品を受けることはできないものの、縁のある地方公共団体への恩返しの意味を込めてふるさと納税してはいかがでしょうか。
足場・ドローン投資
ここ数年人気だった足場・ドローン投資による節税策は、残念ながら直近の税制改正によって封じられてしまいました。現在足場・ドローン投資を行っても大きな節税効果を得ることはできません。
迷ったら税金のプロ税理士に相談するのが一番
以上、法人向けの節税対策と効果について解説しました。
ここまでいくつか具体的な節税対策を紹介しましたが、冒頭で述べたとおり、どの企業、どの時代にも対応できる万能の節税対策はこの世に存在しません。
税金のプロである税理士にお任せいただければ、貴社にあったオーダーメイドの節税方法を考え、「節税の達成」というゴールまで貴社を導くことが可能です。
「節税したいがどうしたらよいか分からない」という方だけでなく、「今すぐとは言わないがいつかは節税も考えないといけないと思っている」という方も、ぜひ一度、税理士に相談することをおすすめします。