医療法人の設立に必要な機関と理事の役割・リスクを解説
医療法人化する際は、役員として3名以上の「理事」および1名以上の「監事」を選任する必要があります。
医療法人の理事にはどのようなリスクがあるのでしょうか?
この記事では、医療法人における理事が負うこととなる主な義務的リスク・責任的リスクについて解説していきます。
医療法人化を検討している個人開業医の方はぜひ参考にしてください。
医療法人における「理事」とは
まずは、医療法人における「理事」の役割と選任のポイントについて詳しく見ていきましょう。
理事の役割
医療法人における「理事」とは、株式会社の「取締役」に相当する役職のことです。
また「理事長」は株式会社の「代表取締役」に相当し、医療法人における業務執行の意思決定を行う等の重要な役割を担っています。
医療法人を設立するうえで必要な機関
医療法人として病院・クリニックを経営する場合は、以下の3つの機関を設置することが義務付けられています。
社員総会 | 社員(≒株式会社の株主)によって構成される機関で、株式会社における「株主総会」に相当します。医療法人の設立には3名以上の社員が必要です。 |
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監事 | 医療法人を監査する機関で、医療法人の立場や財産状況等の監査が主な職務です。医療法人の設立には1名以上の監事が必要となります。 |
理事会 | 医療法人における業務執行の意思決定を行う機関で、理事長・理事から構成されます。医療法人の設立には3名以上の理事が必要です。 |
院長と理事長の違い
院長 | 病院・クリニックの責任者 |
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理事長 | 医療法人の責任者 |
1つの医療法人で分院している場合、各病院・クリニックの責任者が院長で、全ての病院・クリニックをまとめる医療法人全体の責任者が理事長ということになります。
なお一人医師医療法人については、必然的に院長が理事長を兼任する形となります。
理事長を選任する際のポイント
医療法人の理事長を選出する際に押さえておきたいポイント・要件は以下の通りです。
選任できるのは原則医師または歯科医のみ
理事長は医療法人の代表取締役という立場になるため、リスク等を踏まえ、基本的に医師あるいは歯科医からしか選ぶことができない仕組みになっています。
都道府県知事の認可を受けられれば、医師・歯科医以外の人物が理事長を務めることも可能となりますが、認可の審査基準は非常に厳しいため、あくまでも例外的な措置と考えた方が良いでしょう。
理事長の兼任は可能
理事長の兼任は、法的には可能です。
しかし、理事長という役職は、医療法人の代表権を持つ重要な立場であり、リスク等を踏まえると基本的には適さないと言えるでしょう。
特に、すでに医療法人の理事長を務めている方が新たに別の医療法人を設立する場合には、既存の医療法人の運営状況や資産状態が審査の対象となります。
また分院ではなく別の医療法人として設立することの理由を説明できる必要もあります。
理事長の平均報酬
理事長の報酬は定款もしくは社員総会の決議によって決定される仕組みです。
金額は医療法人の規模や勤続年数等の条件で異なるため、一概にいくらということは言えませんが、一説によると1,200万円程度が相場と言われています。
理事長の年収について、3,600万円が上限とされる情報もありますが、実際には役員報酬に明確な上限はなく、各医療法人が独自に決定することができます。
ただし、不当に高額な役員報酬を設定した場合は損金算入が否認されるリスクがあるので注意しましょう。
下記の記事では、医療法人の理事長の年収について詳しく解説していますので、ぜひ参考にしてください。
理事はどのようなリスク(義務・責任)を負う?
続いて、医療法人の理事が負うこととなる主な義務的リスク・責任的リスクについて解説していきます。
理事の主な義務的リスク
医療法人の理事が負う主な義務的リスクは以下の通りです。
リスク | リスクの概要 |
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忠実義務 | 法令、定款、社員総会の議決を遵守し、法人のため忠実に職務を行う義務 |
善管注意義務 | 民法の委任の規定に基づく善良な管理者の注意義務 |
競業及び利益相反取引の制限 | 自己または第三者のために法人と取引をする場合等における理事会の承認・報告義務 |
社員総会における説明、報告義務 | 社員から説明または報告を求められた場合の対応義務 |
監事に対する報告義務 | 法人に著しい損害をおよぼす恐れのある事実を発見したときの報告義務 |
医療法人の理事における義務的リスクとは、職務遂行において求められる法的義務を果たすことに関連するリスクです。
具体的には、善管注意義務や忠実義務が含まれます。
これらは、理事が医療法人の利益を守るために必要な注意を払い、法令や定款を遵守し、誠実に職務を遂行することを求めるものです。
また、報告義務や競業避止義務も含まれ、これらを怠ると法的な問題を引き起こす可能性があります。
理事の主な責任的リスク
医療法人の理事が負う主な責任的リスクは以下の通りです。
リスク | リスクの概要 |
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法人に対する損害賠償責任 | 任務を怠ったことにより生じた損害を賠償する責任 |
第三者に対する損害賠償責任 | 職務において悪意・重大な過失があった場合に第三者に生じた損害を賠償する責任 |
責任的リスクは、理事が職務を怠ったことにより発生する損害に対する賠償責任を指します。
医療法人に対する責任としては、任務懈怠が原因で法人に損害を与えた場合に賠償責任を負うことがあります。
また、第三者に対する責任では、理事の悪意や重大な過失により第三者に損害が生じた場合にその賠償責任を負います。これらのリスクは、法令遵守と誠実な職務遂行により軽減できます。
医療法人の理事に関するよくある質問
最後に、医療法人の理事に関するよくある質問について紹介します。
医療法人の理事を親族にする場合の報酬は?制限はある?
医療法人の理事に親族を任命する場合、報酬には特定の制限があります。
親族が役員として報酬を受け取る場合、その報酬は「定期同額給与」の原則に従わなければなりません。
これは、報酬が毎月同額で支払われることを意味し、不当に高額な報酬を設定して法人税を減少させることを防ぐためです。
また、親族が理事として適切に職務を遂行していることが求められ、実際に業務を行っていないにもかかわらず報酬を受け取ることは税務上問題となる可能性があります。
医療法人の監事は誰に頼む?
医療法人の監事を選任する際には、いくつかの制約があります。
まず、監事は医療法人の業務や財務の状況を監査する役割を担い、少なくとも1人以上を置く必要があります。
監事には、医療法人の理事や職員、理事の親族(6親等以内の血族、配偶者、3親等以内の姻族)は就任できません。
これは、監査の公正性を確保するためであり、利害関係者や親族による監査が不適切とされるためです。
監事には特別な資格は必要ありませんが、独立性と公正性が求められます。
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医療法人における役員の種類とリスクまとめ
- 医療法人を設立する際には、社員総会、監事、理事会の三つの機関を設置し、それぞれに適切な人員を配置することが求められる
- 理事長は通常、医師または歯科医師から選ばれ、他の医療法人の理事長を兼任することは基本的に適さない
- 理事長は、忠実義務や善管注意義務といった義務的なリスクを負うことに加え、法人に対する損害賠償責任という責任的なリスクも抱えることになる
医療法人を設立する際は、医療法人に必要な機関・役員を把握するとともに、これらの役員が負うリスク(義務・責任)についても理解しておくことが大切です。
七福計画株式会社では、こうした医療法人の経営に関する知識や情報の提供が可能ですので、法人成りに向けて疑問・不安を抱えているという方はぜひ一度ご相談ください。