持分あり医療法人における出資持分の「贈与」について解説
医療法人の持分とは、医療法人の財産権のことです。
財産権を持っている医療法人は「持分あり医療法人」、財産権を持っていない医療法人は「持分なし医療法人」と言われます。
中には、「持分あり医療法人の相続税はどうなるの?」「財産の移転方法とは?」と疑問をお持ちの方がいるかもしれません。
そこで本記事では、医療法人の持分に関する基礎知識、財産の移転方法、持分あり医療法人の相続問題などについて解説します。
医療法人の持分とは
医療法人における持分とは、医療法人の財産権のことです。株式会社でいう資本金にあたります。
持分あり医療法人は「財産権のある医療法人」で、持分なし医療法人は「財産権のない医療法人」を意味します。
それぞれの特徴は以下の通りです。
種類 | 特徴 |
持分あり医療法人 |
|
持分なし医療法人 |
|
経過措置医療法人とは
平成19年4月に第5次医療法が改正されたことにより、持分あり医療法人は設立できなくなりました。
非営利性を徹底することと、地域医療の安定性を確保することが目的です。
改正時点で持分があった医療法人は「経過措置医療法人」と呼ばれ、しばらくの間存続することが認められています。
持分ありと持分なしの違い
持分あり医療法人と持分なし医療法人には、さまざまな違いがあります。
持分あり医療法人 | 持分なし医療法人 | |
---|---|---|
財産権 | あり | なし |
解散の場合 | 解散時に残った財産は出資者に返還される | 解散時に残った財産は国のものになる |
買取請求の場合 | 財産の払い戻しを請求できる | 財産の払い戻しを請求できない |
相続の場合 | 医師以外でも財産を相続できる | 財産を相続できない |
以下で両者の違いについて詳しく確認していきましょう。
財産権
持分あり医療法人の場合、出資者が財産権に加え、返還請求権を有しています。
例えば、医師3人が50万円ずつ出資して医療法人を設立した場合、3人とも財産権と返還請求権を所有していることになります。
持分なし医療法人の場合、財産権や返還請求権を所有できません。
※基金拠出型医療法人は拠出基金の返還を求めることが可能です。
解散の場合
持分あり医療法人の場合、解散時に残った財産は出資者に返還されます。一方、持分なし医療法人は残った財産は国のものになります。
※基金拠出型医療法人は拠出基金の返還を求めることが可能です。
買取請求の場合
持分あり医療法人を設立後に、出資者が法人を買い取る場合、財産の払い戻しを請求することが可能です。
一方、持分なし医療法人は払い戻しを請求できません。
※基金拠出型医療法人の場合は、拠出した金額を支払わなくてはいけません。
相続の場合
持分あり医療法人の場合、出資者が医師以外でも財産を相続できます。ただし、相続税が課税されるので、納税に必要な現金を用意する必要があります。
持分なし医療法人は財産を相続できません。そのため、相続税の納税義務が発生することはありません。
持分あり医療法人における財産の移転方法
持分あり医療法人における財産の移転方法は以下の3種類です。
- 譲渡
- 相続
- 贈与
それぞれについて解説します。
譲渡
医療法人の出資持分は、財産的価値を持つ有価証券と見なされており、特別な制約がない限り、その一部または全てを自由に譲渡できるとされています。
医療法においても、持分の定めのある社団医療法人(経過措置型医療法人)の出資持分の譲渡に関して、特に規制する規定はありません。
したがって、医療法人の出資持分は自由に譲渡できるものと考えられており、実際に譲渡されています。
所得税法では、医療法人の出資持分の譲渡益は、有価証券の譲渡と同じく譲渡所得として課税され、その税率は20.315%(内訳:所得税および復興特別所得税15.315%、住民税5%)となっています。
相続
持分あり医療法人における持分は、相続が可能です。
この場合、相続人が医者ではなくても相続することができます。
もちろん、出資持分は財産権の一種ですので、これを相続する場合には相続税(最高税率55%)の対象となります。
ただし、一定の条件を満たすことで、この持分にかかる相続税は、認定移行計画に定められた移行期限まで納税が猶予される特例があります。(医療法人持分納税猶予税額)この特例は、以下の要件を満たす場合に適用されます。
- 相続人等が、被相続人から医療法人の持分を相続または遺贈により取得した場合
- その医療法人が相続税の申告期限において認定医療法人である場合
贈与
持分あり医療法人における持分は、贈与をすることも可能です。
贈与においても贈与税(最高税率55%)が課されます。
ただし、贈与の場合、原則相続開始前10年間における贈与は、遺留分の対象となります。(令和元年7月1日以後の相続から適用)
こちらも相続の場合と同じく、下記の要件を満たす場合には、その受贈者の贈与税額から放棄相当贈与税額を控除します。(医療法人持分税額控除額)
- 認定医療法人の持分を有する人(贈与者)がその持分の全部または一部の放棄をしたことにより、その認定医療法人の持分を有する他の人(受贈者)に贈与税が課される場合
- その受贈者がその放棄の時からその放棄による経済的利益に係る贈与税の申告期限までの間に、認定医療法人の持分の全部または一部を放棄したとき
持分あり医療法人の相続問題
持分あり医療法人が財産を相続する場合、「相続税」の問題について検討しておく必要があります。
相続税はキャッシュで納税する必要があるため、相続する人に支払い能力がない場合、困難な状態に陥ってしまうのです。
亡くなった医者が相続税分のキャッシュを用意していれば問題ないでしょう。しかし、相続する子供などがキャッシュを用意できないと問題です。
結果的に医療法人の運営にも支障が来してしまいます。
持分なし医療法人への移行も視野に入れよう
持分あり医療法人は、持分なし医療法人に移行することも可能です。
持分なし医療法人に移行する場合、相続税ではなく贈与税が発生しますが、出資者の方に払い戻しを請求される心配がなくなります。
持分なし医療法人への移行手続きは以下の通りです。
- 移行計画の申請および定款変更について、社員総会で議決
- 厚生労働省へ移行計画の申請
- 認定後に定款変更を都道府県へ申請
- 移行に向けた具体的な動きを取る
- 持分なし医療法人への定款変更について社員総会で議決
- 持分なし医療法人への移行についての定款変更を都道府県へ申請
- 移行完了を厚生労働省へ報告
厚生労働省の資料では詳しく説明されているので、チェックしてみましょう。
参照:厚生労働省「「持分なし医療法人」への移行促進策のご案内」
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記事まとめ
本記事では、持分あり医療法人と持分なし医療法人の違い、医療法人における財産の移転方法、持分あり医療法人の相続問題について解説しました。
持分ありの医療法人の場合、
高額な出資持分の相続が発生したり、出資者に払い戻しを請求されたりする可能性があります。
一方、持分なし医療法人においては出資者に払い戻しを請求されることはありません。
「地域に継続的な医療を提供する」ために、厚生労働省は、医療法人が安定した経営をできるように、持ち分なしの医療法人に移行を推奨しています。
将来のために持分なし医療法人への移行をご検討している場合は、一度、七福計画株式会社をはじめとする、経営コンサルタントや税理士にご相談ください。