医療法人化のメリットやデメリットについて解説!リスク対策は保険で対応
「医療法人化するデメリットとは?」
「医療法人化すべきタイミングとは?」
と疑問をお持ちの方がいるかもしれません。
厚生労働省のデータによると、令和3年10月現在における一般診療所のうち医療法人は43.2%です。半数以上が医療法人化していないことは、デメリットがあることを示唆しているのでしょうか?
今回の記事では、医療法人の基礎知識、医療法人化のメリット・デメリット、医療法人化を検討すべきタイミングについて解説します。
参照:厚生労働省「医療施設調査」
医療法人とは
医療法人とは、「医療法」という法律に基づいて設立される法人です。
具体的には、病院、診療所(医師や歯科医師が常時勤務)、介護老人保健施設、または介護医療院の開設を目的とした施設を指します。
医療法では、医療法人は「社団法人」または「財団法人」の形態を取ると規定されていますが、ほとんどの場合は社団法人が選ばれています。各法人の出資者は「社員」と呼ばれます。
出資者が、出資持分に応じて払戻請求権を保有する場合は「出資持分のある法人」と呼ばれ、払戻請求権を保有しない場合は「出資持分のない法人」といいます。
「出資持分のない法人」のうち、公益性に関する一定の条件を満たしている法人は、租税特別措置法に基づき、法人税の軽減税率が適用される「特定医療法人」に分類されます。
医療法人の種類
医療法人の種類を以下の表にまとめました。
医療法人の種類 | 概要 |
---|---|
社団医療法人 | 医療・介護の提供や医学・歯学の研究を目的とし、法人が設立される形態。
医師や歯科医師などの医療関係者が集まって設立される。 |
財団医療法人 | 医療の発展や医学・歯学の研究を目指して、法人が設立される形態。
寄付金などを使って設立される。 |
厚生労働省の集計によると、令和5年時点での医療法人の数は、社団医療法人が57,643法人に対して、財団医療法人は362法人と、社団医療法人が圧倒的に多いです。
個人クリニック(開業医)との違い
個人クリニックとの違い一覧は以下の通りです。
医療法人 | 個人クリニック | |
---|---|---|
種類 | 病院、診療所、介護老人保健施設、看護師学校、医学研究所、精神障害者社会復帰施設など | 病院、診療所 |
許認可 | 都道府県知事の許可が必要 | 届出のみ |
登記 | 必要 | 不要 |
診療所数 | 複数の分院が開設可能 | 1カ所のみ |
役員報酬 | 1年固定で自由に決定可能 | なし ※売上-経費が利益になる |
決算日 | 1年以内で自由に決定可能 | 12月31日 |
決算書の提出 | 必要 | 不要 ※青色申告者は必要 |
退職金制度 | あり | なし |
社会保険 | 加入義務あり | 5人以下の場合は加入義務なし |
立ち入り検査 | 定期的にある | なし |
個人で経営する病院や診療所(クリニック)は、営利活動が可能で、収益や財産は経営者の個人資産として扱われ、自由に使用することができます。
一方で、医療法人は個人である医師とは別の法人格として成立するため、法人の収益はすべて医療法人に帰属します。この仕組みによって、契約や報酬などの事業運営に関わる要素が、医師個人と法人の間で明確に区別されることになります。
例えば、個人病院では、収入から経費を差し引いた利益がそのまま経営者の個人所得となります。しかし、医療法人になると、個人と法人の財産が分離され、経営者は法人から給与を受け取る形になります。
さらに、医療法人には開設できる施設数や業務範囲に関しても特有の規定があり、これらは事業計画に大きな影響を与えます。
例えば、事業を拡大して分院を設置したい場合や、診療所以外の施設を運営したい場合、医療法人化が必須となる点が普通の法人化と異なる大きなポイントです。
医療法人化のデメリット
以下で、医療法人化のデメリットを解説します。
①理事長個人の可処分所得が減少
医療法人化の一番のデメリットは、理事長個人の可処分所得が減ることです。
個人開業の場合 | 医業収益から費用を引いた差額が所得。
所得税と住民税を除いた残りは自由に使える個人財産となる。 |
---|---|
医療法人の場合 | 医療収益から費用を引いた差額に対して法人税が課税される。
残り分は医療法人の資金となり、自由に使えない。 |
医療法人設立に際して、個人診療所時代の借入金を医療法人に引継ぐためには、一定要件を満たす必要があり、すべてを医療法人に引継げない可能性があります。
その結果、個人に多額の借入金が残り、さらに個人の可処分所得が減少すると、借入金の返済が困難になる可能性もあります。
そのため、税の軽減効果だけを考慮するのではなく、設立後の個人のキャッフローについても、検討しなければなりません。
②社会保険への加入が必要
医療法人の場合、社会保険に必ず加入しなくてはなりません(個人医院でも職員が5人以上の場合、加入義務が発生します)。
社会保険料が発生し、雇用側の負担が増加する点は、デメリットと捉えられますが、社会保険があるというのは一職場としての魅力につながります。
結果的に、採用時の応募率や採用後の職場定着率の向上が見込めるでしょう。
③複雑な法的規制と手続きが発生
事業報告書や資産登記、理事会の議事録などを作成する必要があります。
設立時はかなり複雑な手続きが必要となるので、院長先生ご本人や事務長が行うことは不可能です。設立時の手続きは外部への委託が必要になります。
また、医療法人は事業年度終了後に都道府県に対して、事業報告書の提出が義務付けられており、この事業報告書は誰でも閲覧できます。
つまり、自分の医療機関の財務情報が公表されるということであり、見せたくない情報が開示されるというデメリットがあります。
加えて、事業報告書の提出や、総資産の登記変更など細々とした事務が発生するために、その都度、手間と費用が発生する点もデメリットと言えるでしょう。
④業務内容の制限
医療法人化すると業務内容が制限されます。医療法人が対応できる業務範囲は以下の通りです。
- 本来業務
- 附帯業務
- 附随業務
- 収益業務
※社会医療法人以外の医療法人の場合、収益業務以外の3つの業務に制限されます。
例えば、土地を活用したい場合でも、動産経営は認められていません。サプリメントなどの通信販売も制限されます。
このように医療法人には制限があり、個人クリニックと比較すると自由度が低くなる点がデメリットです。
⑤運営コストの増大
医療法人化することで、運営コストが増大する可能性があります。
社会保険や厚生年金への加入が必須となるためです。
社会保険料の半分は法人負担となり、多くの従業員を抱えている医療法人ほど負担が大きくなります。
⑥簡単に解散できない
医療法人化してしまうと、簡単に解散できません。
解散する場合は、まず都道府県に届出をして、法務局で解散の登記を実施する必要があります。
仮申請受付時期が設けられており、申請プロセスには半年ほどの期間が必要です。
医療法人化は地域にとって重要な役割を担う機関であることから、簡単には解散できないことを覚えておきましょう。
医療法人化のメリット
それでは、医療法人化にはどのようなメリットがあるのでしょうか?以下で詳しく確認していきましょう。
①分院展開がスムーズ
個人病院では分院の開設が認められていません。
その一方で、医療法人化することで分院の開設が可能です。
分院を開設することで、診療エリアや患者層の拡大により、売上を増やすチャンスが広がります。
また、分院は県をまたいで設置することもでき、広域医療法人として活動ができるようになりますが、その際には定款の変更や申請が必要となることもあります。
さらに、本院が外来診療のみを行っている場合でも、分院で新たな機能を持たせることが可能です。例えば、本院が整形外科であれば、分院をリハビリ専門のクリニックとして運営し、法人内での連携を図ることができます。
相乗効果で売上の底上げにも寄与するでしょう。
また、スケールメリットを利用して医薬品や消耗品、検査費用などを割安で入手することができるため、経費削減にもつながります。
②事業継承・相続対策が可能
個人病院を経営する開業医が事業を承継する際、事業規模や収益に応じて多額の相続税や贈与税が課されます。
その一方で、医療法人として事業承継を行う際には、原則として相続税はかからず、理事長の変更のみで承継することができるというメリットがあります。
これは「持分なし医療法人」に限り、この場合は財産を相続する権利がないことから、相続税がかかりません。
平成19年4月1日以降に医療法人を設立した場合や、法人化した場合は「持分なし医療法人」となります。
持分あり医療法人の相続税に関しては、以下の記事を参考にしてください。
関連記事:持分あり医療法人における出資持分の「贈与」とは?具体的な手順を解説
③退職金の支給が可能
公益財団の医療法人は、院長や配偶者は「死亡退職慰労金」や「弔慰金」、「特別功労金」、などの退職金を受け取ることができます。
死亡退職時と通常退職時によって受け取れる退職金の種類が異なります。
例えば、死亡退職時には「死亡退職慰労金」、「弔慰金」、「特別功労金」は死亡退職時に受け取ることが可能です。
「退職慰労金」、「特別功労金」は通常退職時に受け取れる退職金と定められています。
退職金の額が適正範囲内であれば、公益財団の医療法人は、その支払った退職金の金額を金額損金に算入することも可能です。
④短期的な税金対策が可能
医療法人化における一番のメリットは、「短期的な税金対策が可能」ということでしょう。
そもそも、個人開業医が納める所得税の税率は最大45%で、住民税を加えると55%にもなりますが、医療法人が納める法人税はそれよりも税率が低く、法人事業税を加えても30%程度まで抑えられます。
所得税は累進課税方式であるため、医業の利益が増えるほど医療法人化によるメリットが高まります。その結果、手元に残るお金を増やすことが可能になります。
さらに、給与所得控除や所得分散による間接的な税金対策もあります。
以下で詳しく解説します。
給与所得控除
医療法人化を行うと医療法人から役員報酬が支払われるようになり、「給与」として所得を処理することが可能です。
つまり、給与所得控除が受けられるようになります。
給与所得控除はサラリーマンと同じく、給料の5%+170万ほど受けることが可能です。
例えば、1,500万円の理事報酬には、令和2年より195万円の給与所得が控除されます。
個人事業では、経営者の報酬は経費として認められていないため、青色申告特別控除が65万円つくことになります。
これは、単純計算で毎年130万円経費が増えるのと同等の効果があるといえます。
さらに、所得税や住民税の最高税率が下がるため、個人クリニックと医療法人では税金の額に大きな差が出るでしょう。
理事報酬の活用、所得分散による課税額の縮小
家族を理事に任命することで、医療法人から理事報酬を支払うことが可能です。
理事長一人に集中させると個人の税負担が増えるため、理事長の報酬を抑え、家族に分散することで、家族全体の収入は同じでも、税負担を軽減することができます。
⑤社会的信用度が向上
医療法人は設立時に厳格な審査を通過し、都道府県知事からの認可を受けます。
さらに、事業報告書や監査報告書の提出により、適切な運営が確保され、財務状況が透明化されます。
これにより、医療法人化することで、金融機関からの融資が受けやすくなるなど、社会的な信用が向上すると考えられます。
医療法人化を検討すべきタイミングや条件
それでは、どのようなタイミングで医療法人化を検討すべきなのでしょうか?
年間事業所得が1,800万円を超えた
年間事業所得が1,800万円を超えた場合、医療法人化することで所得税を抑えることが可能です。
「開業医としての事業所得が1,800万円の場合」と「医療法人化後の役員報酬が1,800万円の場合」だと、納税額に131万以上の差額が生じます。課税額や所得税率などが両者では変わるためです。
年間事業所得が1,800万円を超えたタイミングで、医療法人化を検討してみてください。
社会保険診療報酬が5,000万円を超えた
社会保険診療報酬が5,000万円を超えた際にも、医療法人化を視野に入れることをおすすめします。
社会保険診療とは、社会保険診療に対応する医療機関に支払われる報酬です。この社会保険診療が5,000万円を超えると、「概算経費」を利用できなくなります。
概算経費とは、実際に使用した経費ではなく、社会保険診療報酬の額によって決められた分を経費とする仕組みのことです。
実際にかかった経費よりも多く計上すれば課税額を抑えられますが、5,000万円を超えた場合は概算経費が適用されなくなります。
開業7年目を迎えた
開業7年目を迎えた個人開業医は、医療法人化を検討すべきでしょう。開業7年目からは課税対象額が上がってしまうためです。
開業時に揃えた医療機器などは、償却期間が6年目と決められており、7年目以降は経費計上できなくなります。
収入から経費を差し引くことになり、課税対象額が上がってしまうのです。
事業拡大や事業承継を検討している
事業拡大や事業承継を検討している方は、医療法人化すると良いかもしれません。
医療法人化することで、開設できる施設数や事業範囲を拡大できます。また、医療法人化すれば理事長を変更するだけで事業を引き継ぐことが可能です。
そのため、将来的に事業拡大や事業継承を考えている方は、医療法人化の準備を進めましょう。
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【記事まとめ】医療法人化では専門家を活用しよう
今回の記事では、医療法人化のメリットとデメリットについて解説しました。
医療法人化をすべきかは、状況やタイミングによって変わってきます。税金の側面からも、年間事業所得が1,800万円を超えたタイミングや開業7年目を迎えたタイミングは医療法人化を検討しましょう。
ただし、医療法人化をする場合は、複雑な手続きが必要になります。
何から着手すべきかわからない方は、法人の税金に関して専門知識を有した七福計画にご相談ください。