
医療法人と社会医療法人の違いとは?メリット・デメリットを解説!
医療法人と社会医療法人は、どちらも医療機関を運営するための法人ですが、設立要件や税制、事業範囲、経営面で大きな違いがあります。
本記事では、両者の特徴やメリット・デメリットを比較し、医療機関運営においてどちらが適しているかを検討する際の参考となる情報を解説します。
社会医療法人とは
地域や社会全体にとって不可欠な医療を安定して提供するために「社会医療法人」という法人形態が設けられています。
社会医療法人は、一般の医療法人よりも公益性の高い医療を担う存在として、特別な役割と特徴を持っています。
社会医療法人の設立背景
社会医療法人は、2007年の第5次医療法改正で新設された医療法人の一類型です。
その背景には、従来は自治体病院が担っていた救急医療やへき地医療、災害医療など、採算が合いにくい「公益性の高い医療」の担い手が減少し、地域の医療体制が揺らいでいた現状があります。
自治体病院の赤字経営や医師不足が深刻化し、公的医療機関だけでは十分な医療提供が難しくなったことから、民間の医療法人にも公益性の高い医療を担ってもらう必要性が高まりました。
このような社会的要請を受けて、国は民間医療法人のなかでも特に公益性の高い医療を安定的に提供できる法人を「社会医療法人」として認定し、税制上の優遇措置や収益事業の拡大などのインセンティブを設けました。
社会医療法人の特徴
社会医療法人には、一般の医療法人と比べて以下のような特徴があります。
設立要件が厳しい
社会医療法人の設立には、都道府県知事の認定が必要です。
認定を受けるためには、救急医療やへき地医療など、公益性の高い医療を安定的に提供できる体制や実績が求められます。
加えて、経営の中立性や透明性を確保するため、役員構成やガバナンス体制にも厳格な基準が設けられています。
たとえば、同一親族による役員の選任制限など、組織の私物化を防ぐためのルールが定められています。
また、社会医療法人は「持分のない医療法人」として設立されるため、出資者が法人財産を持ち出すことができません。
そのため、法人の公益性がより強く担保されています。
税制上の優遇措置を受けられる
社会医療法人は、税法上「公益法人等」として扱われます。
そのため、病院や診療所などの本来業務から生じる利益には法人税が課税されません。
また、介護事業や福祉事業などの収益業務についても、通常の法人税率よりも低い19%(年800万円以下の所得部分は15%)の軽減税率が適用されます。
ただし、適用除外事業者(事業年度の所得金額の平均が15億円を超える)については、15%は適用されません。
さらに、救急医療等確保事業に用いる不動産には固定資産税や都市計画税、不動産取得税が非課税となるなど、地方税についても優遇措置があります。
収益業務から本来業務への支出は、一定額まで寄付金として損金算入できる仕組みも設けられています。
通常の医療法人では取り組めない「収益業務」にも取り組める
社会医療法人は、医療提供に支障がない範囲で、厚生労働大臣が定める収益業務を行うことが認められています。
この収益業務には、農業、林業、漁業、製造業、情報通信業、運輸業、卸売・小売業、不動産業(建物・土地の売買を除く)、飲食店・宿泊業、教育・学習支援業など、多岐にわたる業種が含まれます。
これらの収益業務で得た利益は、病院や診療所などの本来業務に再投資することが義務付けられており、医療の質向上や地域医療の安定化に役立てられます。
特定医療法人との違い
特定医療法人も税制上の優遇措置を受けられる医療法人の一種ですが、社会医療法人とは設立目的や要件が異なります。
特定医療法人は、主に「持分の定めのない医療法人」で、出資者への利益還元が制限されている法人が対象です。
法人税の軽減や相続税の非課税などの恩恵がありますが、社会医療法人のように公益性の高い医療提供や収益業務の拡大は求められていません。
一方、社会医療法人は、公益性の高い医療を安定的に提供することが最大の目的であり、認定要件や事業範囲がより厳格かつ広範囲です。
また、社会医療法人は税制優遇に加えて、自治体病院の遊休病床の優先割当や国有財産の優遇取得など、経営面でも特別な支援を受けられる点が特徴です。
参考:厚生労働省
医療法人と社会医療法人比較
医療法人と社会医療法人は、どちらも病院やクリニックを運営する法人ですが、設立要件や税制、収益事業の範囲、経営面で大きな違いがあります。
ここでは両者の特徴を比較します。
比較項目 | 医療法人 | 社会医療法人 |
---|---|---|
設立要件 | ・比較的緩やか ・理事3名以上+監事1名以上 ・理事長は医師または歯科医師 |
・公益性の高い医療提供が必須 ・救急・災害・へき地医療等の実績 ・同族役員制限 ・都道府県知事の認定が必要 |
税制上の優遇措置 | ・医療保険業務は法人税非課税 ・附帯業務や収益事業は法人税25.5%課税 |
・医療保険業務は法人税非課税。収益業務は軽減税率19% ・救急医療等確保事業の資産は固定資産税等が非課税 |
収益事業の範囲 | ・医療・介護・一部附帯業務のみ ・認可された範囲で限定的 |
・医療提供に支障がなければ、農業・製造業・飲食業など幅広い収益業務が可能 ・利益は本来業務へ充当義務あり |
経営上のメリット | ・設立が容易 ・分院展開や相続対策がしやすい ・退職金積立が可能 |
・税負担が軽減される可能性 ・幅広い事業展開 ・自治体等からの支援 ・社会的信用の向上 |
経営上のデメリット | ・収益事業の制限 ・税制優遇が限定的 ・社会的信用は社会医療法人に劣る |
・設立・運営要件が厳格 ・事務負担増 ・経営の自由度が低い |
参考:厚生労働省(P11)
要件
まずはそれぞれの要件を解説していきます。
医療法人
医療法人の設立は、理事3名以上、監事1名以上の役員体制が必要です。
理事長は医師または歯科医師に限られます。
病院や診療所などの施設を1か所以上設置し、設立後2か月分の運転資金を現預金で確保する必要があります。
役員の欠格事由や職員の兼任制限なども定められています。
参考:厚生労働省(P7)
社会医療法人
社会医療法人は、救急医療やへき地医療など公益性の高い医療の実績が求められます。
都道府県知事の認定が必要で、役員の同族制限(3分の1以下)、社会保険診療収入が全体の8割超、理事報酬基準の公開など、厳格な要件が課されます。
また、持分のない法人であることも必須です。
税制上の優遇措置
次に税制上の優遇措置の違いを見ていきます。
医療法人
医療保険業務(病院・診療所・介護老人保健施設)は法人税が非課税です。
附帯業務や収益事業には法人税25.5%が課税されます。
役員報酬の分散や退職金積立による税負担の軽減が可能ですが、税制上の優遇範囲は社会医療法人より狭いです。
参考:厚生労働省(P11)
社会医療法人
社会医療法人は、医療保険業務は法人税非課税、収益業務には軽減税率19%(年800万円以下は15%)が適用されます。
救急医療等確保事業の資産には固定資産税・都市計画税・不動産取得税が非課税です。
参考:国税庁(P8)
収益事業の範囲
収益事業の範囲にも両者には違いがあります。
医療法人
医療法人が行える収益事業は、医療・介護・一部附帯業務(駐車場、売店など)に限られます。
これ以外の事業は原則禁止されており、経営の幅は限定的です。
社会医療法人
社会医療法人は、医療提供に支障がなければ、農業、林業、製造業、情報通信業、運輸業、卸売・小売業、不動産賃貸業、飲食業、教育事業など多岐にわたる収益業務が可能です。
ただし、風俗営業や投機的事業など社会的信用を損なう業種は禁止されています。
得た利益は本来業務に充当しなければなりません。
経営上のメリット・デメリット
最後に経営上のメリットとデメリットを比較してみます。
医療法人
医療法人のメリットは、設立が比較的容易で分院展開や事業承継がしやすい点です。
役員報酬の分散や退職金積立も可能で、経営の柔軟性があります。
一方、収益事業の範囲が狭く、税制優遇も限定的であるため、経営の発展性や社会的信用の面では社会医療法人に劣ります。
社会医療法人
社会医療法人は、税負担が軽減される可能性があり、幅広い収益事業が認められます。
自治体や国からの支援、社会的信用の向上も期待できます。
ただし、設立や運営の要件が厳格で、事務処理やガバナンス体制の整備が不可欠です。
経営の自由度が低く、役員構成や事業運営にも制約が多い点がデメリットです。
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医療法人と社会医療法人は、設立要件や税制、収益事業の範囲などに明確な違いがあり、経営方針や地域医療への貢献度によって最適な選択肢が異なります。
そのため、医療法人の設立や運営、税務管理には専門的な知識が不可欠です。
七福計画株式会社は、医療法人の税務や経営に関する豊富な実績を持ち、複雑な手続きや税務リスクへの対応もサポートしています。
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