医療法人における役員(理事・理事長・監事)の概要と仕組み
「医療法人の役員に期待される役割とは?」
「医療法人における役員報酬の相場は?」
と疑問をお持ちの方がいるかもしれません。
医療法人を設立する際は、理事や理事長、監事から構成される役員を選任する必要があります。
法律による規定事項もあるので、役員について理解を深めることが大切です。
今回の記事では、役員の基礎知識、役員を選任する際のポイント、医療法人の役員に関するF&Qなどについて解説します。
医療法人における「役員」の概要
国民の健康維持に寄与することが目的である医療法人は、利益を求める営利法人(株式会社など)とは性質が異なります。
役員の構成も営利法人とは異なるので、以下で医療法人における役員について確認していきましょう。
役員の構成・規定
役員の構成と規定内容について、以下の表にまとめました。
理事会 | 必須 |
---|---|
役員の人数 | 3名以上の社員、3名以上の理事(理事長含む)、1名以上の監事 |
役員選任方法 | 社団医療法人は社員総会・財団医療法人は評議員会 |
役員任期 | 2年(2年経過後は「権利義務役員」となる) |
理事長選定 | 理事会で選定 |
理事とは
理事とは、株式会社の「取締役」に相当する立場です。
社員総会または評議会によって選任され、医療法人の常務を処理することが主な役割です。
なお、医療法人が開設する全ての病院・診療所・介護老人保健施設には、その管理者を理事として選任しなければならないため、管理者がその職を退いた場合は、同時に理事の職も失うことになります。
理事長とは
理事長とは、株式会社の「代表取締役」に相当する立場です。原則として、医師もしくは歯科医師の理事の中から理事長が1名選出されます。
理事の中で唯一代表権が認められている役職です。
医療法第46条において「医療法人を代表し、医療法人の業務に関する一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有する」と定められています。
理事長の兼任については法的には可能です。
ただし、理事長は医療法人の代表権を持つ責任者という立場であることから、監督官庁から行政指導を受ける可能性が高いでしょう。
既に医療法人の理事長を務める人物が新たに別の医療法人を設立するという場合は、既存の医療法人の運営・資産状況も審査の対象となります。
併せて、別の医療法人として設立する必然性を説明する必要がある点にも留意しておきましょう。
院長との違い
理事長と院長はどちらも責任の伴う立場なので混同されやすいです。
両者の違いは「責任の領域」と言えるでしょう。
- 理事長:法律的な責任者
- 院長:医療実務の責任者
1つの医療法人が複数のクリニックを経営している場合、「各クリニックのトップ=院長」で、「医療法人全体のトップ=理事長」という位置づけになります。
監事とは
医療法人は役員として監事を1名以上任命しなくてはいけません。医療法第48条では、監事は医療法人の理事・従業員と兼任ができないと決められています。
監事の主な役割は、医療法人の業務や財産状況を監査することです。
監査報告書を作成する必要があり、会計年度終了3ヵ月以内に提出する必要があります。
加えて、医療法人の業務および財産に関する不正・法令違反・重大な定款違反行為等を発見した場合に、これを都道府県知事や社員総会に報告するという役割も担っています。
医療法人における理事会の仕組み
医療法第46条では、医療法人は主に以下の機関で構成されています。
- 社員総会(最高意思決定機関)
- 理事会(執行機関)
- 監事(監査機関)
理事会は株式会社で言うところの「取締役会」で、職務として医療法人の業務執行に関する決定を行います。
理事は社員総会で3名以上選出され、理事長は理事の中から1人選出されます。
理事になるためには、自然人かつ特定の条件を満たす必要があります。なお、理事の任期は2年です。
医療法人の役員を選ぶときのポイント・注意点
続いて、医療法人の役員を選ぶときのポイント・注意点について詳しく見ていきましょう。
選任機関
役員の選任機関はそれぞれ以下の通りです。
- 理事および監事:社員総会
- 理事長および管理者等:理事会
役員に関しては細かく規定が定められているので、以下の表で禁止事項を確認しておきましょう。
医療法人との関係性 | 禁止事項 |
---|---|
医療法人と取引関係にある営利法人等の役職員 | 理事・監事への就任不可 |
医療法人の理事・理事長と三親等以内の親族 | 監事への就任不可 |
医療法人と顧問関係にある弁護士や税理士 | 監事への就任不可 |
監事 | 当該医療法人の理事または職員との兼務不可 |
役員の変更時に必要となる手続き
医療法人の役員が変更となった場合の手続き方法は以下の通りです。
理事長の変更があった場合
理事長の氏名・住所に変更があった場合は、2週間以内に法務局へ変更登記の申請を行いましょう。
また都道府県に対しても変更届の提出が必要となり、届出の際には新任役員の就任承諾書と履歴書の添付が求められます。
理事・監事の変更があった場合
理事および監事は登記事項に含まれないため、変更登記の申請は必要ありません。
ただし都道府県に対しては変更届の提出が必要となり、こちらも届出の際には新任役員の就任承諾書と履歴書の添付が求められます。
理事を解任することは可能?
社員総会で決議をとることで、理事はいつでも解任できます。
理事を含む役員解任の社員総会では、総社員の過半数の出席かつ出席者の過半数の賛成が必要です。
ただし、任期途中に解任した場合、解任に“正当な理由”がないとして理事から損害賠償を請求される可能性があるため、安易な理事の解任は避けた方が良いと言えるでしょう。
医療法人の役員におけるよくある質問
以下で、医療法人の役員に関するFAQを紹介します。
医療法人の役員になるための要件は?医師以外はなれる?
理事長に関しては、原則医師もしくは歯科医師から選出する必要があります。
ただし、以下のケースに該当する場合はその限りではありません。
- 理事長が死亡や病気などで職務を継続できない時に、医科(歯科大学)在学中の子女が卒業後研修を終了するまでの間、医師(歯科医師)でない配偶者等が引き継ぐケース
- 特定医療法人もしくは社会医療法人、地域医療支援病院経営の医療法人、財団法人日本医療機能評価機関による認定を受けた医療法人
- 運営に悪影響が出ないと都道府県知事が認めた医療法人
親族が医療法人の理事になるときの制限はある?
医療法における要件では、親族が医療法人の理事になるときの制限はなく、理事のすべてが親族でも認可されます。
ただし、自治体によっては、親族以外の理事を1名以上配置するように定められているケースもあるので、自治体の方針を確認しましょう。
ちなみに、利害関係者や理事の親族は、理事の仕事を確認する立場にあるため監事に就任することはできません。民法で定められている親族の範囲は「6親等内の血族と3親等内の姻族」です。
医療法人と理事と社員の違いや関係は?
医療法人を設立するためには、社員2名以上、理事が3名以上必要です。社員は株式会社で言うと「株主」、理事は「取締役」に相当します。
それぞれの役割は以下の通りです。
- 社員:社員総会で重要事項を決議する役割
- 理事:運営管理を取り決める役割
よく「社員=理事」と認識している人が多いですが、必ずしも社員が理事になる必要はありません。
医療法人の役員の任期はどのくらい?
医療法人における役員の任期は2年間です。医療法第46条で定められています。
ただし、再任することは問題がないとされているので、社員総会で役員を再選任することは可能です。
役員が改選された場合、退職・死亡等の理由で役員が辞任した場合は、役員変更届を提出する必要があります。
医療法人の理事の報酬は?
報酬に関する明確な決まりはないため、本人の意思や法人の経理事情、税率等を総合的に鑑みて報酬額が決まるケースが多いです。報酬は定款または社員総会の決議で決められます。
医科診療所(年間医業収入が1億円)の報酬相場は「2,440万円」程度です。また、歯科診療所(年間医業収入が1億円)の報酬相場は「1,780万円」程度と言われています。
同規模のクリニックの報酬相場を参考にしながら、報酬を決めるケースもあるようです。
医療法人の理事のリスクは?
医療法人における役員は、善管注意義務の責任を負います。
役員が善管注意義務に違反し、医療法人に損害が生じた場合、役員は損害賠償責任に問われます。
役員の職務執行により第三者に損害が生じた場合、役員個人が損害賠償責任を負わなくてはいけません。
理事のリスクに関しては、以下の記事で詳しく解説しています。
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記事まとめ
- 医療法人を設立するためには、理事・理事長・監事を選任しなくてはいけない
- 役員に変更があった場合は法務局および都道府県に対する速やかな届出が必要
- 役員の任期は基本的に2年間
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