医療法人の退職金制度の導入率と資金準備のポイントを解説
医療法人として病院・クリニックを経営する際は、退職金の有無や金額について取り決めを行う必要があります。
この記事では、医療法人における退職金の支給状況と、医療法人が採用する主な退職金制度の種類を解説していきます。
退職金の資金準備に役立つ制度や保険についてもまとめているので、ぜひ参考にしてみてください。
医療法人における退職金の支給状況と計算方法
退職金とは、退職者が出た際に支給される金銭のことで、「退職手当」や「退職慰労金」等とも呼ばれています。
まずは、医療法人における退職金の導入率と、平均的な支給額について詳しく見ていきましょう。
退職金制度の導入率
法律上では退職金の支払いは任意となっており、必ず支給しなければならないというものではありません。
厚生労働省が発表した「令和5年就労条件総合調査」によると、医療・福祉業界における退職金制度(一時金・年金)の導入率は全体の75.5%という結果でした。
全産業における導入率は74.9%であったため、医療・福祉業界は退職金制度の導入率が比較的高いと言えるでしょう。
また下表を見ると、法人規模が大きいほど退職金制度の導入率が高く、中小規模になると導入率も低くなるということが分かります。
従業員数 | 退職金制度がある企業の割合 |
---|---|
1,000人以上 | 90.1% |
300〜999人 | 88.8% |
100〜299人 | 84.7% |
30〜99人 | 70.1% |
退職金の平均支給額は勤続年数に比例
退職金の支給額は退職理由や学歴、また勤続年数等の条件によって異なります。
以下は、東京都が発表した「中小企業の賃金・退職金事情(令和4年版)」における医療・福祉分野のモデル退職金をまとめた表です。
学歴 | 勤続年数 | 退職金(自己都合退職) | 退職金(会社都合退職) |
---|---|---|---|
高校卒 | 3 | 14.2万円 | 16万円 |
5 | 19.9万円 | 21.4万円 | |
10 | 51.7万円 | 57万円 | |
20 | 131.9万円 | 143.8万円 | |
30 | 232.3万円 | 252.8万円 | |
高専・短大卒 | 3 | 14.7万円 | 19.1万円 |
5 | 24.6万円 | 26.2万円 | |
10 | 58.5万円 | 66.6万円 | |
20 | 134.9万円 | 153万円 | |
30 | 238.6万円 | 267.5万円 | |
大学卒 | 3 | 15万円 | 20.2万円 |
5 | 26.3万円 | 29万円 | |
10 | 65.1万円 | 72.5万円 | |
20 | 151.4万円 | 165.8万円 | |
30 | 262.6万円 | 279.4万円 |
上表から、医療法人における退職金の金額は勤続年数が長いほど高くなり、また自己都合退職よりも会社都合退職の方が高いということが分かります。
退職金の計算方法と税務上の取り扱い
従業員の退職金は上記のような調査によってある程度相場を把握できるものの、医療法人の役員(理事長・理事・監事)についてはケースごとに退職金の額が大きく異なるため、一概にいくらということは言えません。
医療法人における一般的な役員退職金の計算方法は以下の通りです。
功績倍率とは役員の職責に応じて乗じる係数のことで、役職が高いほど適用される倍率も大きくなります。
なお医療法人の場合、従業員および役員の退職金を全額損金として計上できるという特徴があります。
退職所得は税金面でも優遇されているため、法人・個人の双方において効果的な仕組みだと言えるでしょう。
ただし、従業員の退職金が相場を大きく上回るケースや、役員退職金に設定する功績倍率が高すぎるケースでは損金算入が否認される可能性もあるので注意が必要です。
医療法人が導入する退職金制度の種類と特徴
続いて、医療法人で採用されている基本的な退職金制度の種類について詳しく見ていきましょう。
退職一時金制度
退職一時金制度とは、退職時に退職金の全額を一括で受け取る制度のことです。
退職金制度の中で最も一般的なタイプとなっており、前章で紹介した導入率や相場等もこの退職一時金制度の内容を指しています。
企業年金制度
企業年金制度とは、退職時にもらえる給付金を分割で受け取る制度のことです。
中小規模の医療法人では退職一時金のみを導入しているケースがほとんどですが、大規模な医療法人の場合は退職一時金と企業年金の両方を支給しているケースもあります。
主な企業年金の種類と概要は以下の通りです。
確定給付企業年金(DB) | 企業が掛け金を拠出・運用し、従業員の年金を準備する仕組みです。支払う年金額が事前に確定しているのが特徴で、規約型(生命保険会社等に年金資産の運用を任せる)と基金型(企業が設立した企業年金基金が資産を運用する)の2種類があります。 |
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企業型確定拠出年金(DC) | 企業が掛け金を拠出し、従業員が自身で運用する仕組みです。運用成果次第で年金額が増減する点が大きな特徴となっています。 |
厚生年金基金 | 厚生年金保険料の一部を掛け金として、厚生労働大臣の認可を受けた厚生年金基金が運用する仕組みです。なお厚生年金基金は代行割れ(責任準備金の積立不足)等によって平成26年以降は新規設立ができなくなっています。 |
前払い制度
前払い制度とは、従業員が退職する際に支払われる退職金を在職中に支払うことができる制度を指します。
月々の給与に上乗せする形で退職金を支払うため、退職時の一時的な高額支出を回避できることが特徴です。
また月々の給与が高くなることで、キャリアアップ等に資金を投資できるといった従業員のメリットもあります。
一方、前払いの場合は退職金も給与としてみなされるため、社会保険料の負担額が増えるというデメリットも存在する点に注意が必要です。
資金を用意するうえで役立つ制度・保険
ここからは、医療法人における退職金の積立方法としておすすめしたい「中小企業退職金共済(通称:中退共)」の仕組みと、生命保険の活用方法について解説していきます。
①中小企業退職金共済制度を利用する
中小企業退職金共済は、事業主の相互共済と国の援助によって運用される退職金制度のことです。
この制度を利用することで、医療法人は国から以下の助成を受けることができます。
- 加入後4カ月目より1年間にわたり、掛金月額の2分の1(従業員ごと上限 5,000円)を助成
- 短時間労働者の特例掛金月額(掛金月額 4,000円以下)加入者については、助成額に300円~500円が上乗せ
また医療法人の場合、中小企業退職金共済の掛け金の全額を損金として算入することができます。
中小企業退職金共済に加入する前の勤務期間も通算できる(最大10年)ため、独力で退職金制度を設けることが難しいという場合は活用を検討してみると良いでしょう。
②生命保険を利用する
中小企業退職金共済の代わりに、生命保険を活用して資産準備を行うのも1つの方法です。
医療法人の場合、生命保険に支払う保険料の一部または全部を経費として計上することができます。
生命保険料を経費計上しながら積み立て、返戻金を退職金にあてるという使い方により高い節税効果を得られるでしょう。
法人保険における保険料の資産・損金計上割合は以下の通りです。
最高解約返戻率 | 資産・損金計上の割合 |
---|---|
50%以下 | 全額損金計上 |
50%超~70%以下 | 4割の期間は60%を損金、40%を資産計上 |
70%超~85%以下 | 4割の期間は40%を損金、60%を資産計上 |
85%超 | 最高解約返戻率の70%(保険期間開始日から10年間は90%)を資産計上 |
医療法人やクリニックにおける従業員退職金に関するよくある質問
医療法人やクリニックにおける従業員の退職金に関するよくある質問について2点紹介します。
院長へ退職金を支給することはできる?
医療法人において、院長に退職金を支給することは可能です。
退職金は、あらかじめ定められた「役員退職金規程」に基づいて支給され、法人の経費として計上できます。
ただし、退職金の額は同業種・同規模の法人で認められている範囲内でなければ、税務上の問題が生じる可能性があります。
具体的には、最終報酬月額、勤続年数、功績倍率を用いて計算されることが一般的です。
従業員への退職金を支払わないメリットとデメリットは?
医療法人やクリニックにおいて、従業員に退職金を支払わないことにはいくつかのメリットとデメリットがあります。
下記に退職金を支払わないメリットとデメリットをまとめました。
メリット | デメリット |
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メリットとデメリットを踏まえ、従業員へ退職金を支払うかどうか決めましょう。
記事まとめ:退職に関する規定作成は七福計画株式会社へご相談ください
- 退職金制度は企業が任意で設定できる福利厚生の1つで、医療・福祉業界においては約75%の企業が導入している
- 医療法人が採用する退職金制度には、退職時に一括支給する退職一時金制度の他、企業年金制度や前払い制度等の種類がある
- 医療法人が退職金用の資金を準備する方法として、中小企業退職金共済や生命保険の活用が挙げられる
当メディアを運営する七福計画株式会社では、生命保険を活用した退職金準備のサポートを実施しています。
また以下をはじめとする法人向けの経営支援も幅広く行っているので、経営に関するお悩みをお持ちの方はぜひ一度七福計画株式会社までお問い合わせください。
経営支援 | 法人活用におけるリスクマネジメント、役員退職金の準備 等 |
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経営者個人への支援 | 法人・個人のバランスを考慮したリスクマネジメント 等 |
福利厚生 | 安全配慮義務や退職金準備等を意識した福利厚生制度としての保険案内 等 |
資金対策 | 保険を活用した合理的な財務体質強化 等 |
事業承継 | 株価等を踏まえた事業承継のサポート 等 |
相続 | 計画的な贈与と相続対策 等 |