法人保険で経営者・役員の退職金を準備する方法を解説

法人保険で経営者・役員の退職金を準備する方法を解説

経営者や役員に支給する役員退職金は、一般の従業員の退職金と比較して高額になることが多いです。

そのため、どのように資金を準備すれば良いか検討している企業も多いでしょう。

役員退職金を準備する方法はさまざまですが、法人保険(生命保険)であれば万が一のときにも備えられます。

本記事では、法人保険で役員退職金を準備するメリットとデメリット、おすすめの法人保険、退職金を法人保険で支払う際の注意点について解説します。

目次

役員退職金とは

役員退職金とは、経営者や役員が受け取る退職金」のことです。これまでの功績や企業に貢献したことへの対価として支払われます。

役員退職金を支給するためには、定款に定めるか、株主総会で決議するかの対応が必要です。

一般従業員の場合は、就業規則の退職金規程に定められている通り、退職金が支給されます。

役員退職金の種類

役員退職金は、以下の2種類に大きく分けられます。

①勇退退職金:経営者や役員本人が生存している状態で受け取る退職金

②死亡退職金:在任中に亡くなった場合に遺族が受け取る退職金

勇退退職金の場合、勤続年数や功績などによって金額が変わってきます。

死亡退職金は、遺族の生活や相続税の支払いを保証する目的で、遺族に対して支払われます。

役員退職金を準備する方法

役員退職金を準備する方法には、さまざまな方法があります。代表的な方法は以下の通りです。

  • 預金
  • 有価証券
  • 不動産投資
  • 法人保険

役員に対する退職金は高額であるケースが多く、十分に計画できていないと会社の財政が圧迫されてしまいます。

近年は計画的に資金を準備する方法として、「法人保険」が注目されています。それでは、法人保険で役員退職金を準備することで、どのようなメリットを得られるのでしょうか?

法人保険で役員退職金を準備するメリット

役員退職金を法人保険で準備することには、どのようなメリットがあるのでしょうか。主な4つのメリットについて解説します。

メリット1:計画的に退職金の資金準備ができる

役員退職金を準備するために貯蓄性のある法人保険に加入すると、毎月(毎年)決められた保険料を支払い続けることで、将来支払う予定である退職金の原資を着実に貯めることが可能です。

事業資金に余裕のあるときだけ銀行に預金する場合、退職時までに十分な金額が準備できないことがあります。

また、退職金の支払い時に高額な預貯金が必要になるとキャッシュフローに大きな影響が出てしまい、事業資金が不足してしまう可能性もあります。

メリット2:勇退退職金と死亡退職金の両方に対応可能

法人保険で役員退職金を準備すると、退職時に受け取れる勇退退職金と、万が一のことがあった場合に遺族に支払われる死亡退職金のいずれにも対応できます。

勇退退職金はセカンドライフに必要な資金となり、死亡退職金は遺族の今後の生活のために必要な資金となります。

経営者や役員であっても老後資金や遺族に対する保障は不可欠なため、法人保険を活用するケースが多いです。

メリット3:事業資金不足にも活用できる

貯蓄性の高い法人保険は役員退職金の準備だけでなく、事業資金が不足した場合などにも活用可能です。

思いがけないタイミングでビジネスチャンスが到来したときや、トラブルなどで事業資金が不足したときなど、法人保険の解約返戻金を利用して資金に充当することができます。

また、「契約者貸付制度(※)」を利用すると法人保険を解約しなくても解約返戻金の一定の範囲内で保険会社から融資を受けることも可能です。

※契約者貸付制度:生命保険の解約返戻金を担保として資金を融資してもらえる制度。利用上限額は一般的に、解約返戻金の70〜90%であることが多い。

解約返戻金という担保があるため、銀行融資のように審査がなく融資までの時間が早い。

メリット4:税金対策となる

法人保険で支払った保険料は、その一部または全額を損金算入することで支払う税金の負担を軽減できる可能性があります。

ただし、2019年の税制改正以降は損金算入ルールが変更になり、これまでのような効果は期待できなくなりました。

しかし、法人保険の種類によっては保険料の一部または全額を損金算入できるものもあるため、税金対策に活用すること自体は現在も可能です。

利益を圧縮できると自社株の評価額を下げることも可能なので、事業継承の際や相続税を支払う際にメリットがあるといえます。

法人保険で役員退職金を準備するデメリット

ここでは、法人保険で役員退職金を準備するデメリットについて解説します。

デメリット1:元本割れのリスクがある

法人保険に加入した後、早い段階で解約してしまうと「元本割れ」に陥る可能性があります。

つまり、支払った保険料よりも受け取れる金額が少ないということです。

やむを得ない理由で法人保険を解約する場合以外は、法人保険に加入し続けて、計画的に資金を積み立てていくことをおすすめします。

デメリット2:財務状況悪化のリスクがある

法人保険にはさまざまな種類があります。

中には、保険料が高額に設定されているものもあり、状況を考えずに高額の保険を選択してしまうと財務状況が悪化してしまうでしょう。

事業を運営するにあたって、事業が落ち込んでしまう可能性は常にあります。そのため、法人保険に加入する前に、掛け金に関して慎重に検討することが大切です。

デメリット3:損金算入できない可能性がある

役員退職金の支給額によっては、損金算入できない可能性があることに留意しましょう。

基本的に、役員退職金の支給額は会社が決定権を握っています(支給額を高額に設定することも可能ということです)。

しかし、税務署による調査などによって、不当に高額であると判断された場合、役員退職金が損金算入できないケースがあるので注意が必要です。

役員退職金の準備におすすめの法人保険

役員退職金のために法人保険を活用する場合、どの法人保険に加入するかを慎重に検討することが大切です。

数ある法人保険の中で、役員退職金準備のために加入されている法人保険に「逓増定期保険」と「長期平準定期保険」があります。
いずれの法人保険も貯蓄性が高いというメリットがありますが、解約返戻金がピークを迎える時期が異なります。

退職のタイミングに合わせてどちらの法人保険が適しているか検討しましょう。

役員退職金の準備におすすめの法人保険①:逓増定期保険

逓増定期保険は、経営者や役員向けの退職金準備のために活用されることの多い法人保険です。

契約年数に伴って保険金額が徐々に増加し、最大5倍まで逓増した保険金額が満期日まで保障されます。

また、逓増定期保険は保険金額が比較的短期間で増加していくタイプの法人保険で、解約返戻率がピークを迎えるまで加入時から5〜10年といったものが多いです。

そのため、退職を検討し始めた経営者や役員、今後10年前後で退職する予定の経営者や役員などに向いている法人保険といえます。

支払った保険料の一部を損金算入できるというメリットがあるほか、経営者や役員の勇退退職金や死亡退職金の準備金としてだけでなく、事業資金が不足した際の資金調達方法のひとつとしても活用されます。

ただし、保険金額が逓増していくというメリットがある反面、保険料が一般的な定期保険よりも高額になることが多いため、キャッシュフローに大きな影響が出る可能性があります。

また、解約返戻金がピークを迎えた後は急激に減少することが多いため、解約するタイミングを慎重に検討する必要があります。

役員退職金の準備におすすめの法人保険②:長期平準定期保険

長期平準定期保険は、経営者や役員の退職金の準備のために活用されている法人保険のひとつです。

保険期間が90歳から100歳までといったように一般的な定期保険よりも長く設定されており、その間の保障金額は一定で変わりません。

長期平準定期保険も貯蓄性の高い法人保険なので解約返戻金を受け取れますが、解約返戻金のピークは保険会社によってさまざまですので解約時期に合わせて選択・設計する必要があります。

また、ピークを迎えた後も急激に減少することはなく比較的長くピーク期間が続くので、中途解約のタイミングが多少ずれてしまっても十分な解約返戻金を受け取れる可能性があります。

長期平準定期保険は、割安な保険料で大きな保障を終身保険と同じくらいの長期間得られるというメリットがあります。

逓増定期保険のように保険金額が最大5倍に増えるといったことがないため、保険料は逓増定期保険よりも安く済むことが多いです。

長期平準定期保険は、比較的短期から長期まで安心して緊急な資金繰りから役員退職金まで対応できる保険です。

役員に退職金を支払う際の注意点

役員退職金の財源を法人保険で準備できたとしても、自由に退職金として支払えるわけではありません。

企業の定款に役員退職金について定めておくか、株主総会で決議を得る必要があります。

これらの手続きを踏まずに支払ってしまうと、支払った企業と受け取った経営者や役員も追徴課税などのペナルティを負う可能性があるため、しっかり確認しておきましょう。

役員に退職金を支払う際は「定款」か「株主総会の決議」が必要

法人保険などを活用して役員退職金を支払う際には、企業の定款に役員退職金の支払いについて定めておく必要があります。

しかし、実際には定款が定められていないこともあり、その場合は株主総会で決議を得る必要があります。

株主総会では、退職金の金額や算定方法などを決議します。

また、役員退職金は経理処理上、損金算入できることが原則となっていますが、税務署から「退職金額が高すぎる」との指摘を受けると、一定水準を超える部分の損金算入ができなくなる可能性があります。

利益が圧縮できないと税金の支払いが高額になってしまうため、合理的な金額であることを示すために「役員退職金慰労金規定」を作成しておくと根拠を示すことができます。

役員退職金には適正な水準がある

役員退職金として支払う金額を高額にすると、経営者や役員に高額な退職金を支給できるうえに、損金算入できる金額が大きくなると考える方もいるかもしれません。

しかし、役員退職金には適正な水準が設けられており、適正額を超える部分は損金算入が認められないことがあります。

役員退職金の適正額は、以下の計算式で計算されています。

役員退職金の適正額=最終報酬月額 × 役員在任年数 × 功績倍率

  • 最終報酬月額:役員退任時の報酬月額
  • 役員在任年数:役員として在任した年数
  • 功績倍率:企業に対する貢献度等を反映した倍率。一般的な水準は2倍~3倍程度。

なお、この計算式で求めた金額を支給しなければならないということではなく、あくまでも損金算入が認められる金額の目安とされています。

まとめ

まとめ

今回の記事では、法人保険で役員退職金を準備するメリットやデメリット、おすすめの法人保険、法人保険を活用する際の注意点について解説しました。

役員退職金の資金を準備する方法にはいくつかありますが、貯蓄性の高い法人保険であれば、勇退退職金と死亡退職金の両方に備えられるほか、事業資金不足の際にも資金を充当することができます。

また、保険料を損金算入することで税金の支払い負担も軽減できる可能性があることから、役員退職金の準備には法人保険が活用されるケースが多いです。

主な法人保険には逓増定期保険と長期平準定期保険がありますが、解約返戻金のピークを迎える時期が異なるため、最適な方を選んで加入することをおすすめします。

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